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2012年08月27日

4日がかりのお産

初産婦さんでも来院して3~4時間くらいでお産になるスピード出産の方もいますが、一般的に初産婦さんはお産に時間がかかります。
一般的に経産婦さんで平均6時間、初産婦さんで12時間くらい、初産婦さんは30時間をこえると遷延分娩と考えます。
子宮口が全開大してからは経産婦さんで1時間、初産婦さんは2時間過ぎると遷延分娩と考えます。
でも、お産をみているとこれよりも長くかかる人はざらです。子宮口が全開大して赤ちゃんの頭が下がった状態で長くかかると膣への負担からその後の骨盤底筋へ悪影響があるといわれる専門家もいますが、お産が遷延しているからと、陣痛促進剤を使ったり、吸引分娩をこころみるとそれで、お母さんが疲れすぎてしまったり、うまく赤ちゃんがさがらずに、赤ちゃんの心音が下がって帝王切開が必要になることもあります。
そのため、なるべく医療介入は避けたいと考えています。

先日、初産婦さんでかなり長くお産に時間がかかった人がいました。

お産後すぐに是非ブログに載せてくださいね、自分が頑張ってお産できたということでこれから産む人たちが、自分でもできると思ってもらいたいとリクエストをもらいました。その後少し時間がたってしまいましたが、この方のお産を紹介したいと思います。

この方は中学生くらいから病気にかかり色んなことを我慢してきたと言うことです。基礎疾患があるということで、ゆいクリニックのような小さな診療所でお産することができるかどうか、10ヶ月に入るぎりぎりまで相談してきました。
高齢初産ということもあり、お産には時間がかかるかもということも心配しましたが、妊娠中にヨガをとても頑張っていて体作りはしっかりしていたので、お産に時間がかかっても体力があるから大丈夫、産めるとも思っていました。
彼女がどうしてゆいクリニックでお産したかったのかということですが、病気のために病院に何度も入院してきた経緯があり、病院にいるととても緊張するので、是非家庭的な雰囲気のゆいクリニックで出産したいということでした。
病院嫌いの私としては彼女の気持ちに共感して、できれば彼女をサポートしたいと思ったのでした。

実際にお産が始まったのは予定日を1週間と1日過ぎてからでした。ずっと赤ちゃんは元気でいました。入院したときには子宮口は1指くらいしか開いていなかったので、通常なら家で様子みるかどうか相談するところです。でも、彼女の不安な気持ちや基礎疾患あることから経過をみたいこともあり、入院してもらいました。10分に一回の陣痛でしたが、一回の陣痛が2分近くあり、長く、きつそうでした。
後からふり返ると2分間も陣痛があると思ったのは強い緊張のためにみせかけに長くおなかが張っていたのですが、その時にはなかなか緊張はとれませんでした。
日曜日の朝7時過ぎに入院して、月曜日の朝には子宮口4cmまで開いてきました。少しずつ休みながら月曜日の夜には少し鎮痛薬も使いながら休みました。
そして火曜日の朝、長引いているのと赤ちゃんの生まれる向きは問題ない(回旋異常はない)ので、陣痛促進剤をつかったら生まれるのではないかと考えてお薬を使うことも提案しました。
でも、その時点で本人さんもだんなさんも薬を使うことにあまり乗り気ではなかったので、、無理には勧めませんでした。破水もしていないし、赤ちゃんも元気で問題はお母さんの疲労だけだったからです。
その話をした直後に火曜日の朝8時頃に自然破水がありましたが、このときには高位破水といって赤ちゃんの包んでいる膜は膣側は破れておらず、赤ちゃんの頭は羊膜に包まれている状態でした。

陣痛促進剤を使うと逆に陣痛が頻回にくるのでお母さんの疲労が進むこともあります。
結局その時には相談の上、自然にまかせて休みながら様子をみることにしました。
後からふり返るとそれが一番良かったと思います。
3日目の夜には今までと違ってすごくリラックスが上手になってきました。
妊娠中からうけていた、頭蓋仙骨療法の施術をこの日の午後にうけて休むことができたのも良かったかもしれません。
本人さんも鎮痛薬を使うよりもこっちの方がよっぽど気持ちよく休めてよかったと言われていました。
夜には陣痛が5分おきではありましたが、合間で上手に休むことができていました。
3日目の夜には翌日朝から陣痛が弱かったら 陣痛促進剤を使うことを説明して同意を得ていました。
3日目の夜には鎮痛薬も使わずに上手に休むことができていました。
4日目の朝、陣痛が弱いと判断して陣痛促進剤を開始しました。朝7時に診察したところ子宮口は全開大して赤ちゃんの頭もすぐそこまでおりてきていました。
陣痛の間隔は5分以上あいていて、合間で上手に休んでいたので、そこまで進んでいるとは思わなかったのでちょっとびっくりしました。赤ちゃんの頭はすぐそこまできていて、もうすぐお産になりそうでしたが、その後、赤ちゃんの心音が一時的にゆっくりになる変動一過性徐脈がみられるようになったため、陣痛促進剤はいったん中止しました。
赤ちゃんの頭はすぐそこまできていたので、いざとなったら吸引分娩で出産できるとも考えましたが、陣痛が弱いと吸引してもお母さんのいきみがないとうまく生まれないことも考えられます。
そこで、いったん陣痛促進剤を中止して少し休んでもらいながら、様子を見ていました。
赤ちゃんの心音が低下しないようになったので、再度午前11時くらいから陣痛をつける薬を再開しました。
朝10時くらいには完全破水して赤ちゃんの頭はゆっくりゆっくりおりてきてくれました。
そして朝方頻繁におちていた赤ちゃんの心音はお昼くらいからはまったく落ちなくなり、とても元気な状態になってきました。
少しずつお薬を増量しながら、陣痛にあわせて声を出しつついきんだりしました。
お昼からはだんなさんもつきそって彼女をささえてスクワットの姿勢を手伝ってくれたりしました。
そこで少しつかれてきた様子があったため、トイレに移動して産綱につかまって息んだところ、赤ちゃんの頭がいっきにおりてきて午後3時前にお産になりました。
トイレに行くタイミングでだんなさんはどうしても仕事に行かないといけないとのことでいったんクリニックを出られてすぐのタイミングでお産になったので、立ち会えなかったのはちょっと残念そうでしたが、お産後すぐに戻っていらして、おへそをきったり、パパカンガルー抱っこをしたりしていました。赤ちゃんの出てくる瞬間には立ち会えませんでしたが、これだけ4日間もずっとつきあって、しっかり立ち会い出産だったと思います。

お産の経過をふり返ってみてとても長くかかったお産でしたが、3日目に陣痛促進剤を使わなくて良かったとつくづく思います。
結局お産後にふり返って、4日目の朝赤ちゃんの心音がおちた原因は分かりませんでしたが、お産直前にはまったく心音低下が見られなかったので、一時的にどこかで赤ちゃんの体と子宮の壁の間にへその緒が挟まれていて、赤ちゃんの体がおりてくるについれてその圧迫がとれたのではないかと考えられます。
もしこういう状態が3日目の朝に陣痛促進剤をつかって心音低下が頻繁にみられるようなことがあったら、その時点で帝王切開を考えないといけなかったかと思います。4日目の朝には赤ちゃんの頭はすぐそこにきていることが分かっていたので、
心音がおちてもいざとなったら吸引分娩できると思って待つことができました。
今回のお産では待つことの大切さを改めて教えてもらうことができました。
また、長いこと病気を持ちながら生きてきて、こうやって長く陣痛とつきあいながらも自分の力で産むことができたということで、彼女にとってお産を通して、自分の力を信じる大きな機会になったと確信します。
誕生日直前のお産で、彼女の感想を一部紹介します。

入院から4日目にして出産になり、その間というのは実はほとんど食事が喉を通らず、体力消耗していた私は途中で心が折れそうになり、「もうお腹切ってください」と言いたい気持ちになり始めていましたが、今まで努力してきた事や、史先生に支えてもらった気持ちをムダにしたくなくて、自分でお驚くほどに出産中は力がみなぎってきました。
いろいろな体勢で試み、最終的にはトイレにある産み綱を使い、途中まで出てきた赤ちゃんをまたおふとんの上で四つん這いの形で産み落としました。
あの生々しい体温を直に感じながら
「ああ これが命だ!」
と何とも言い様のない想いが私の体をかけめぐりました。主人は出産中はスクワットの体勢の時など一緒に頑張ってくれていましたが、途中仕事で15分ほど分娩室から出た際に赤ちゃんが産まれて少しがっかりした表情でしたが、へその緒をきったり、パパカンガルーをして子供に対する愛情が何倍にも増したようでした。ゆいクリニックならではの事だったと思います。私がもし他の病院で出産していたらこれ程感動的な出産はなかったと思います。

誕生日を迎えた私ですが、その前に美しい赤ちゃんが産まれ、私が生涯にわたって願っていた
‘一番のプレゼント’を与えられた気がします。「大きなご褒美だね」の主人の言葉が嬉しかったです。


台風で外来休診になって、その分後の仕事がちょっと怖いですが、
仕事は山積みですが、この機会にいただいた宿題にブログアップしました。
○○さん遅くなってすみませんでした。

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Posted by 島袋 史 at 13:00│Comments(1)診療
この記事へのコメント
久ぶりに、史先生の

おおらかで、分娩に関することには、

凄く情熱的で、何よりも、

自然なお産、自分らしいお産を

目指していらっしゃる点がよくわかります。

沢山悩みや葛藤も、医師として

また、ひとりの女性として

頑張ってるし、私も勇気付けられ

ました。

良いことばかり、言うことが

出来ない産婦人科の医師として、

辛い事も、沢山有るでしょう。

精一杯頑張ってる、患者様との距離を

ちじめようとしている、努めている姿、

変わらないですね。(^^)

自然にこだわる先生の言葉に

びっくりする事も有るかも知れませんが

夜勤の時に、急用でコールした時に、

髪振り乱して、急いで来られた姿を見て

休みも無く、一生懸命働いて、

毎日くたくたに成ってるんだなぁと

可哀想に思えた位。

史先生本人は、多分そんな事無いくらい

パワフルでしょうけど(笑)

これからも、頑張ってくださいね。

影ながら、応援してますね(^^)
Posted by みー at 2012年09月25日 13:57
 
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産婦人科ゆいクリニック http://www.yuiclinic.com/