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2013年06月20日

分娩台でのお産 吸引分娩 遷延分娩 ちょっと長いお産

先日、ゆいクリニックで2回目の分娩台(手術台)でのお産がありました。
一回目の方も今回の方も初産で、お産が長引いて吸引分娩をするために手術室に移動してお産になったのでした。
今回の方は、初産で赤ちゃんも大きめで、お産前から難産が予想されていたため、本人さんにも時間がかかるよ~、体力勝負だよ、と説明して、アクティブバースの本で、
ナチュラルな出産のためのガイド―ただいま妊娠中!自然なアクティブバースで自立心と自信を育てる (ガイアブックス) [単行本]  ジャネット バラスカス(著), Janet Balaskas (原著), 伊藤 博之 (翻訳)  の英語版「New Active Birth: A Concise Guide to Natural Childbirth 」

分娩台でのお産 吸引分娩 遷延分娩 ちょっと長いお産

分娩台でのお産 吸引分娩 遷延分娩 ちょっと長いお産


などを読んでもらっていました。
お産される方は日本人でないので、英語でコミュニケーションを取っていましたが、ご夫婦ともに英語が堪能で(お二人とも英語は第2言語の方)私のつたない英語でもなんとか話が通じているようでした。
さて心配していたお産も予定日をさほど過ぎずに陣痛がきました。
時間がかかることは予測されていましたが、夜中0時過ぎに入院してその日はなんとか休みつつ、でも結局入院から9時間ほどしてから痛み止めを数回使い、お産はゆっくりとでもわりと子宮口の開きはスムースに進みました。
でも、産婦さんにとっては想像以上の痛みと疲れだったようで、入院から24時間あまりたった深夜3時、助産師さんからコールがありました。
「もう痛みが耐えられないから、帝王切開してほしい、今から手術できる病院へ搬送してほしい」って言っています、とのことでした。
その日はちょっと夜にお出かけしていて、いつもはいったん寝てから起きている時間帯のところが、ちょうど寝たばかり。かなりきついもうろうとした頭で分娩室へ行って、産婦さんとお話ししたところ、かなりお疲れの様子。
お部屋で休んでいた旦那さんに起きてきてもらい、一緒に説明しました。
「私は自然分娩がいちばんだと思いますよ。自然分娩をするには、とにかく待つことなのです。もし何か医療的な処置をすればそれだけお母さんと赤ちゃんに負担がかかります。もうすぐ朝なので、もうすこし待ちましょう。」
旦那さんも私の意見に賛成して本人を説得、とりあえず痛み止めを再度使って待つことにしました。
(その時点では分娩は長引いてはいましたが、赤ちゃんも元気ですぐに帝王切開の適応はないと判断していたので、搬送する必要はもちろんなく、クリニックで手術をするつもりもまだありませんでした。)
前夜10時には自然破水していましたが、高位破水(赤ちゃんの出てくるところではなく、もっと高い位置での破水で赤ちゃんの頭には膜がかぶっている状態)でした。
朝になって、診察したところ、子宮口は全開大していました。(赤ちゃんの頭は膜をかぶっている状態でした。)
赤ちゃんの頭もかなり下がっていていて、陣痛は弱い状態だったので、母体の疲労を考えて陣痛促進を薬で行うことにしました。
その日の朝に万が一の手術に備えて血液検査をしましたが、母体の炎症反応は高かったので、分娩促進してよかったと思います。
問題はその後にありました。順調に陣痛がついてきて、赤ちゃんも下がってきたのはよいのですが、よい陣痛がきたところで、もうきついから帝王切開してほしいと言っていると外来中に助産師さんから連絡がありました。
その日は外来もいつもより患者さんが多い状況でなかなか産婦さんを見にいけず、患者さんの疲労と朝の所見から、吸引分娩が可能と考えて、分娩台へ移動してもらいました。
外来を早めに終わらせて、手術室へ。
通常はうちではまずしない、人工破膜をして、しばらくはまだ吸引分娩できるまで赤ちゃんの頭が下がっていなかったので、いきんでもらって児頭下降状況をみたところ、かなり頭は下がってきていたので、児頭を吸引して娩出できると判断して吸引しましたが、回旋異常があり、うまくそれを直すことができませんでした。
数回児頭を吸引したところで吸引分娩を断念。
助産師さんと誘導をバトンタッチして、児背の位置がかなり側方にずれていたので、それを修正しつついきんでもらい、その間にも赤ちゃんが陣痛の合間に向きを探ってぐりぐりと移動し、児頭の向きが変わったところで、再度児頭を吸引して、排臨状態から一度いきんだところで赤ちゃんの頭がはまり、お産となりました。
この間、何度も、「もうだめ、手術して」と言われながらもなだめつつ、いましたが、何度ももう手術にしようかと思いかけました。ほぼ排臨ちかくまできていて帝王切開すると赤ちゃんの頭を押し上げてからおなかから出す必要があったりもします。このこともイメージして手術をしようかと思いかけていました。この間分娩台で約2時間、忠雄先生にもお産にも参加してもらって、助産師も3人ついて、マックロバーツ体位(足をあげて骨盤を広げる産婦さんの姿勢)をとってもらって、赤ちゃんの背中を支えつつ、何とかお産になりました。
助産師さんにかわってもらって恥骨を押し上げながら赤ちゃんの頭の向きを直してもらわなかったら、帝王切開していたと思います。
こんなに押して引いてのお産は久しぶり(というかゆいクリニックでは初めてかな)だねと病院でのお産経験のある助産師さんたちと後で言い合いました。
今回のお産では大きな反省点がいくつかあります。
まず最初に、産婦さんがもうだめ、と言った時に分娩台に上がってもらうタイミングが早すぎたこと。
なんとか本人さんを励まして、自然に降りてくるのをもっと待つべきでした。
赤ちゃんの回旋異常もあったので、人工破膜のタイミングももっと遅らせてもよかったかもしれません。何より分娩台に上がるまではあんなにしっかりきていた陣痛がいっきに遠のいてしまって、とても本人の怒責だけでは児頭下降が難しくなってしまった状況を作ってしまったことは反省すべきだと思います。
また、分娩台に上がってからも、もう児頭が見えるくらいまで下りてきていても、産婦さんがもうだめ、もう手術してとずっと言っていたことで本人がここまでやる気がないならもう生まれないかもしれないとあきらめてしまいそうになったことも反省です。誘導を助産師さんに代わってもらわなかったら、私の手はもう限界で(ずっと恥骨を押し上げていて翌日まで右手がしびれていました)、手術を決めていたかもしれません。
もうだめといいつつもとっても上手にいきんで頑張ってくれて、弱い陣痛にもかかわらず本人の力だけでしっかりといきんで赤ちゃんが下りてきてくれたこと、産婦さんは本当によく頑張ってくれて、本当にすごい、よく頑張ったなと思いました。
また赤ちゃんが生まれた直後に産婦さんはとってもすっきりして明るい顔で、疲れも吹っ飛んだ様子で、手術を決めなくてよかったと助産師さんのサポートに心から感謝でした。
児頭吸引後も赤ちゃんの心音は異常なく、ずっと元気でいてくれたのでよかったですが、やはりもう少し待った方が母子への負担はなかったなあと反省です。
結果オーライですが、もし今後当院でお産をお受けする場合には、もっともっと妊娠中に自然なお産について理解してもらって、自分自身で生むんだという覚悟をもってもらえるように、もっとしっかりとコミュニケーションをとらないといけないなと思いました。
また、お産をサポートする際に、「きってほしい(手術してほしい)」という声に私たちスタッフがもっと耐えられるようにならないといけないなと思いました。
どんなにきってほしいと言われても「大丈夫」と言い続けられるようにしないといけないなあと反省です。
医療介入は医療介入をうみ、帝王切開分娩が必要になる可能性が高くなるとしみじみと感じたお産でした。
お産後も心配していましたが、おっぱいもよく出て、産婦さんはとっても元気で、無事でよかったなあと思っています。
その日はほかにもお産が重なり、ちょっと久しぶりに忙しい日でしたが、スタッフも遅くまで残ってくれて、頑張ってくれていました。
以上、分娩台でのお産の報告でした。

分娩台でのお産 吸引分娩 遷延分娩 ちょっと長いお産

(お産についてブログ掲載することに関しては、産婦さん本人にお伝えして了承を得ています。)

吸引分娩とは
吸引分娩は金属製(ハードカップ)又はシリコン製(ソフトカップ)の丸い大きなカップを赤ちゃんの頭に当て、カップ内の空気を抜き、吸引力によって赤ちゃんを引き出します。
ゆいクリニックではシリコン製ソフトカップまたはキウイという手動式簡易吸引カップを用います。
以前は鉗子分娩の方が多く行われていましたが、鉗子より操作が容易で安全性も高いため、最近では吸引分娩の方が多く用いられています。


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Posted by 島袋 史 at 13:03│Comments(0)診療
 
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